Saw-tooth Roof in Ichinomiya


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒShinkenchiku

 

一宮のノコギリ屋根

 

地球との繋がりの中で暮らす歓び

人間ひとりひとりの行為の集積が、地球環境に甚大な影響を与えている。しかし、身の回りと惑星規模のスケールのギャップが、その関係性の想像を難しくしている。日々の生活が営まれる住宅に求められるのは、まず、地球との繋がりを確かに実感できることだ。そのために要なことのひとつに太陽との関係性がある。私たちは太陽から降り注ぐエネルギーを源に生活し、太陽と地球の関係性がダイナミックに変化し続けるこの地球上の自然をつくりあげている。住宅で最も太陽の存在を感じるのは、日射がダイレクトに室内に差し込む瞬間だ。特に寒い冬に窓から差し込む日射を浴びる時の暖かさは、太陽に生かされていると感じさせてくれる。太陽の動きと共に変化する光が室内に明るさをもたらしてくれる時もそうだ。このような自然の変化を美しく感じることができること。その歓びを通して、身の回りと惑星規模のスケールを横断する想像力を獲得し、自らの価値観やふるまいを見直し続けていくことができるのではないか。

愛知県一宮に建つ、若い夫婦と3人の子供のための住宅。この地域では昔から織物生産が盛んで、織物工場にはノコギリ屋根が多く採用され、ユニークな街並みを形成していた。織物工場のノコギリ屋根は、年間通して作業場にくまなく安定した光を届けるため、北向きの採光面をもつのが通常だ。それに対し、この住宅のノコギリ屋根は南向きの採光面をもつ。そのため光の様相はまったく異なり、日々の天空の変化の影響を強く受けることになる。光の変化は、屋根や軒天、壁、床のさまざまなテクスチャーをもった白いサーフェスによって反射・拡散・増幅される。自然の変化を楽しむには、住まい手が主体的に行動する余地があることと雨風や寒さ暑さから適切に守られていることが重要だ。中に入り込むように自然に近づくこともできれば、少し距離を取り安心して自然と向き合うこともできるのが望ましい。今回は、この地域における慣習的な建築形式の環境工学的な観察・再構築と、高断熱高気密をはじめとする材料・構法の適用によってその実現を試みた。この試みは、既存のノコギリ屋根工場を保存するのとは異なる方法で、ノコギリ屋根のある風景をこの街に取り戻すことに繋がる可能性も秘めている。

 


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒJumpei Suzuki


PhotoⓒJumpei Suzuki

周辺に残るノコギリ屋根の機織り工場


PhotoⓒShinkenchiku


PhotoⓒJumpei Suzuki

 

 

 

Site Plan

1F Plan

Section & Detail

 

Environmental Analysis

 

 

 

 

PUBLICATION:

新建築住宅特集2018年4月号

MEDIA:

designboom

 

基本データ ————————————————————————————————————————
建物名称/一宮のノコギリ屋根
主要用途/専用住宅
家族構成/夫婦+子供3人
所在地/愛知県一宮市
延床面積/99.62 m2(内、室内面積79.49㎡)
規模/地上1階
構造/木造軸組構造
最高高さ/4,850 mm

設計・監理
建築:川島範久
構造:平岩良之
設備:高瀬幸造
テキスタイルデザイン NUNO 担当/堤有希

施工
株式会社松原建築商事 担当/朝倉尊司

工程
設計期間 2016年9月〜2017年2月
工事期間 2017年2月〜2017年7月

外皮性能/エネルギー/設備システム ————————————————————————————
外皮平均熱貫流率(UA値):0.34 W/㎡K(断熱ブラインド込)
冷房期平均日射熱取得率(ηA値):1.1 % (断熱ブラインド込)
相当隙間面積(C値):実測値 0.4 ㎠/㎡
設計1次エネルギー消費量 :60.0 GJ/年 (断熱ブラインドの効果は見込まない試算)

空調
暖房方式/床下エアコン
冷房方式/床下エアコン
換気方式/第3種換気(基礎空間へ給気)
給排水
給水方式/直圧直結給水方式
排水方式/公共下水放流方式(生活排水, 雨水分流)
給湯
給湯方式/潜熱回収型ガス給湯